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う気になります。つまり、生きておられるうちにお別れをしていただくのです。これを私は「穏やかな死亡告知」と言っています。安らかに永遠の眠りに入れられたというのです。
私は作家の吉行淳之介さんをみとった時にこの穏やかな死の告知を体験したのです。パートナーの宮城まり子さんと、90歳近いお母さんが二晩徹夜で付き添っておられました。私は患者さんのベッドを低く下げ、その傍らにまり子さんとお母さんのためのマットレスを敷きました。付き添う人と患者さんの目の高さを同じにしたのです。そして吉行さんにまだ息があって深い眠りにあるうちにお別れをしていただいたのです。呼吸停止のあと、「ほんとうによく頑張られました。みなさんもよくお世話をされましたね。とても美しい最後を迎えられました」と言いましたら、90歳近いお母さんはきちんと立ち上がって涙も出さずに「先生、どうもありがとうございました」としっかりした口調でごあいさつをされました。
私は患者さんのお宅で最後をみとることがいまだに時たまにありますが、私はご家族と一緒にご遺体の清拭をします。どうして亡くなられると鼻腔や耳の穴に脱脂綿をつめるのでしょうか。ずっと食べていないので分泌物はありませんから脱脂綿は不要なのです。
みなさんも最後を迎える刻々の変化を静かに家族に告げながら、残された家族のこころが満たされるようなターミナル・パフォーマンスを演出してほしいと思います。ここまでが人のいのちを預かる私たちプロフェッショナルの仕事のうちなのだということを心得ていただきたいと申しあげて、私の話を終わります。

 

 

 

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